无题
佚名
五月啼子规
菖蒲自葳蕤
春心一片无由醉
[原文]
郭公鳴くや五月のあやめぐさあやめも知らぬ恋もするかな
〔470〕
素性法师
音书尚存人杳杳
此身不堪相思扰
朝随白露消
[原文]
音にのみきくの白露夜はおきて昼は思ひにあへず消ぬべし
〔471〕
纪贯之
汤汤吉野川[348]
波狂浪急水飞溅
思君心如煎
[原文]
吉野河岩波高く行く水のはやくぞ人を思ひそめてし
〔472〕
藤原胜臣
此去何所依
白浪掩没旧形迹
孤舟逐风漂万里
[原文]
白波の跡なき方に行く舟も風ぞたよりのしるべなりける
〔473〕
在原元方
音羽山上传音信
逢坂关口盼相逢
年年月月空
[原文]
音羽山おとに聞きつつ逢坂の関のこなたに年を経るかな[349]
〔474〕
恋心如海波
起起落落无停歇
离别情不绝
[原文]
立ちかへりあはれとぞ思ふよそにても人に心をおきつ白波
〔475〕
纪贯之
风来不留痕
只闻其名未见人
已是相思深
[原文]
世の中はかくこそありけれ吹く風の目に見ぬ人も恋しかりけり
〔476〕
右近马场[350]竞马之日[351],有车迎面驶过,忽见帘下女子芳容,故作此歌
在原业平
偶然一瞥间
却教我意动情牵
整日恍恍然
[原文]
見ずもあらず見もせぬ人の恋しくはあやなく今日やながめ暮さむ
〔477〕
答歌
佚名
一瞥又何妨
只缘感君情意长
为君牵情肠
[原文]
知る知らぬなにかあやなくわきて言はむ思ひのみこそしるべなりけれ
〔478〕
春日祭[352]偶遇游赏之女,寻至其家,作歌以赠
壬生忠岑
伊如小嫩菜
春日野间雪下藏
得见喜欲狂
[原文]
春日野の雪間をわけておひいでくる草のはつかに見えし君はも
〔479〕
赏花时偶遇一女,因其有家人相伴,咏而后赠
纪贯之
山樱开霞间
灼灼花映美人颜
一见生思恋
[原文]
山ざくら霞の間よりほのかにも見てし人こそ恋しかりけれ
〔480〕
无题
在原元方
寄情传音信
信未传到情已深
此心落伊身
[原文]
たよりにもあらぬ思ひのあやしきは心を人につくるなりけり
〔481〕
凡河内躬恒
娇声似初雁
闻之遥望天际间
恍惚魂梦牵
[原文]
初雁のはつかに声を聞きしより中空にのみ物を思ふかな
〔482〕
纪贯之
伊人隔云端
芳名如雷贯耳边
恋心岂能断
[原文]
逢ふことは雲居はるかに鳴る神の音に聞きつつ恋ひわたるかな
〔483〕
佚名
单丝难成系
独我心有相思意
如何结连理
[原文]
片糸をこなたかなたに縒りかけてあはずはなにを玉の緒にせむ
〔484〕
云旗猎猎夕照落
君隔云端攀不得
无奈情难歇
[原文]
夕暮は雲のはたてに物ぞ思ふ天つ空なる人を恋ふとて
〔485〕
菰[353]叶割断情未断
思妹难诉心意乱
可知我牵念
[原文]
刈菰の思ひ乱れて我恋ふと妹知るらめや人し告げずは
〔486〕
可恨薄情人
朝露生时悔相亲
夜寝又思君
[原文]
つれもなき人をやねたく白露のおくとは嘆き寝とはしのばむ
〔487〕
我心奉予君
木棉绶带[354]加诸神
相思情不尽
[原文]
ちはやぶる賀茂の社の木綿襷ひと日も君をかけぬ日はなし
〔488〕
春心漫天际
怎奈无尽相思意
没个人堪寄
[原文]
わが恋はむなしき空にみちぬらし思ひやれども行く方もなし
〔489〕
骏河田子浦[355]
河水时有波不起
思君无绝期
[原文]
駿河なる田子の浦波たたぬ日はあれども君を恋ひぬ日ぞなき
〔490〕
日暮月朦胧
静照岗边松
心如松叶长青青
[原文]
夕月夜さすや岡辺の松の葉のいつともわかぬ恋もするかな
〔491〕
心似山下泉
穿流林间不得见
滔滔不可堰
[原文]
あしひきの山下水の木隠れてたぎつ心を堰きぞかねつる
〔492〕
吉野河水拍山岩
心声不似水声喧
抱痴别世间
[原文]
吉野河岩きりとほしゆく水の音には立てじ恋ひは死ぬとも
〔493〕
激流尚可过浅滩
恋心却无分急缓
汹涌去不还
[原文]
たぎつ瀬のなかにも淀はありてふをなどわが恋ひの淵瀬ともなき
〔494〕
水绕高山静默流
我慕君心暗自愁
不死情不休
[原文]
山高み下ゆく水の下にのみ流れて恋ひむ恋ひは死ぬとも
〔495〕
杜鹃花开放
山深岩陡无人赏
情深暗自伤
[原文]
思ひいづるときはの山の岩躑躅いはねばこそあれ恋しきものを
〔496〕
思君君不知
痴心难抑染花枝
末摘花[356]上着胭脂
[原文]
人知れず思へばくるし紅の末摘花の色にいでなむ
〔497〕
秋野尾花烂漫
思情犹胜花颜
奈何与君无由见
[原文]
秋の野の尾花にまじり咲く花の色にや恋む逢ふよしをなみ
〔498〕
庭前梅梢落早莺
啼破心中无数情
凄凄不忍听
[原文]
わが園の梅のほつえに鶯の音に鳴きぬべき恋もするかな
〔499〕
解意如子规
知我思君愁不寐
夜夜泣血泪
[原文]
あしひきの山郭公わがごとや君に恋ひつつ寝ねがてにする
〔500〕
夏燃熏蚊火
恋心如斯起难灭
熊熊不可遏
[原文]
夏なれば屋戸にふすぶる蚊遣り火のいつまでわが身下燃えをせむ
〔501〕
沐浴洗手川[357]
告神自此绝痴恋
无奈神不管
[原文]
恋せじと御手洗し川にせし禊ぎ神はうけずぞなりにけらしも
〔502〕
思恋乱心旌
唯有叹息一声声
聊可慰痴情
[原文]
あはれてふことだになくは何をかは恋の乱れの束ね緒にせむ
〔503〕
苦苦忍相思
无奈思君难自持
眼眉露一丝
[原文]
思ふには忍ぶることぞまけにける色にはいでじと思ひしものを
〔504〕
思君君不知
夜夜泪水遣相思
唯有衾枕湿
[原文]
わが恋を人知るらめやしきたへの枕のみこそ知らば知るらめ
〔505〕
浅茅[358]杂筱竹
暗暗恋君心自苦
此情无处诉
[原文]
浅茅生の小野の篠原忍ぶとも人知るらめやいふ人なしに
〔506〕
短短芦苇垣
相隔不远相见难
暗暗苦思恋
[原文]
人知れぬ思ひやなぞと葦垣のまぢかけれども逢ふよしのなき
〔507〕
思君不见君
懒整衣衫多烦闷
罗带兀自分
[原文]
思ふとも恋ふとも逢はむものなれや結ふ手もたゆく解くる下紐
〔508〕
恍恍惚惚君莫笑
陷痴恋情思渺渺
沧海舟飘摇
[原文]
いで我を人などがめそ大舟のゆたのたゆたに物思ふころぞ
〔509〕
伊势海垂钓
荡来荡去有浮标
我心也飘摇
[原文]
伊勢の海に釣する海人の泛子なれや心ひとつを定めかねつる
〔510〕
伊势一渔翁
甩出长长垂钓绳
似我不了情
[原文]
伊勢の海の海人の釣り縄うちはへてくるしとのみや思ひわたらむ
〔511〕
我心多忧愁
泪川[359]何须寻源头
川水自此流
[原文]
涙川なに水上を尋ねけむ物思ふ時のわが身なりけり
〔512〕
有树必有种
初心不改一腔情
终可得相逢
[原文]
種しあれば岩にも松は生ひにけり恋をし恋ひば逢はざらめやも
〔513〕
江雾一朝朝
忽浓忽淡近又遥
情似雾飘渺
[原文]
朝な朝な立つ川霧の空にのみうきて思ひのある世なりけり
〔514〕
苇间鹤悲鸣
思君难忘泪盈盈
呜咽多哀声
[原文]
忘らるる時しなければ葦鶴の思ひ乱れて音をのみぞなく
〔515〕
思君日复暮
衣带尚结人影孤
多少别离苦
[原文]
唐衣ひもゆふぐれになる時は返す返すぞ人は恋しき
〔516〕
辗转难入寝
夜夜孤眠不安枕
梦中又逢君
[原文]
よひよひに枕さだめむ方もなしいかに寝し夜か夢に見えけむ
〔517〕
思恋命相牵
痛不欲生苦不堪
宁可以死换
[原文]
恋しきに命をかふるものならば死にはやすくぞあるべかりける
〔518〕
相思难相见
久别已惯形影单
安能辞人间
[原文]
人の身も慣らはしものを逢はずしていざこころみむ恋ひや死ぬると
〔519〕
思君心凄恻
独忍情恋自落寞
谁人可与说
[原文]
忍ぶればくるしきものを人知れず思ふてふこと誰に語らむ
〔520〕
愿时光倒转
为把眼前薄情人
送到百年前
[原文]
来む世にもはやなりななむ目の前につれなき人を昔と思はむ
〔521〕
叹君太无情
千呼万唤无动静
只有山回声
[原文]
つれもなき人を恋ふとて山彦のこたへするまで嘆きつるかな
〔522〕
思恋无情人
如同写字于水中
流去渺无痕
[原文]
行く水に数かくよりもはかなきは思はぬ人を思ふなりけり
〔523〕
思君情意长
心亦随君往
空留此身陷迷惘
[原文]
人を思ふ心は我にあらねばや身のまどふだに知られざるらむ
〔524〕
忆君思纷纷
路遥情切迷此心
梦亦难相亲
[原文]
思ひやるさかひはるかになりやする迷ふ夢路に逢ふ人のなき
〔525〕
思君挨晨昏
盼到入夜梦中逢
奈何梦难成
[原文]
夢のうちにあひ見むことを頼みつつ暮せるよひは寝むかたもなし
〔526〕
情深许死生
辗转一夜几多梦
历历皆君影
[原文]
恋ひ死ねとするわざならしうばたまの夜はすがらに夢に見えつつ
〔527〕
思君泪纵横
泪流成河浮衾枕
起落梦难成
[原文]
涙川枕流るるうき寝には夢もさだかに見えずぞありける
〔528〕
多情累此身
玉减香消影嶙峋
只缘不见君
[原文]
恋すればわが身は影となりにけりさりとて人に添はぬものゆゑ
〔529〕
情热如火焰
相思泪成川
江上渔火一点点
[原文]
篝火にあらぬわが身のなぞもかく涙の川に浮きて燃ゆらむ
〔530〕
渔火影摇摇
泪似水流情似烧
情热泪难浇
[原文]
篝火の影となる身のわびしきは流れて下に燃ゆるなりけり
〔531〕
险滩尚可生水松[360]
泪川之上可得逢
相思总有成
[原文]
はやき瀬にみるめ生ひせばわが袖の涙の川に植ゑましものを
〔532〕
恋心无凭靠
随波逐流如浮藻
茫茫然飘摇
[原文]
沖辺にも寄らぬ玉藻の波のうへに乱れてのみや恋ひわたりなむ
〔533〕
鸭动苇喧江起波
我慕君心无断绝
如何与君说
[原文]
葦鴨のさわぐ入江の白波の知らずや人をかく恋ひむとは
〔534〕
似我情欲燃
富士火山腾赤焰
焦灼心难安
[原文]
人知れぬ思ひをつねに駿河なる富士の山こそわが身なりけれ
〔535〕
深山鸟声绝
思慕君心深深锁
却愿君知我
[原文]
飛ぶ鳥の声も聞こえぬ奥山の深き心を人は知らなむ
〔536〕
逢坂多悲声
鸡因绳缚[361]我因情
凄凄不忍听
[原文]
逢坂の木綿つけ鳥もわがごとく人や恋しき音のみなくらむ
〔537〕
逢坂清流细无声
思恋默默藏心胸
尽在不言中
[原文]
逢坂の関に流るる岩清水いはで心に思ひこそすれ
〔538〕
浮草掩渊深
多少情思胸中隐
谁能解我心
[原文]
浮草の上はしげれる淵なれや深き心を知る人のなき
〔539〕
高声向山鸣
只听山间荡回声
君却不回应
[原文]
うちわびて呼ばはむ声に山彦のこたへぬ山はあらじとぞ思ふ
〔540〕
思君多苦辛
若以君心换我心
方知情意深
[原文]
心がへするものにもが片恋はくるしきものと人に知らせむ
〔541〕
离多易成伤
纽带回环结衣裳
莫若结情肠
[原文]
よそにして恋ふればくるし入紐の同じ心にいざ結びてむ
〔542〕
春来冰消尽
愿我情意如暖春
徐徐融君心
[原文]
春立てば消ゆる氷の残りなく君が心は我に解けなむ
〔543〕
朝来蝉哀鸣
入夜舞流萤
朝朝夕夕总关情
[原文]
明けたてば蝉のをりはへなきくらし夜は蛍の燃えこそわたれ
〔544〕
情深难断绝
意凛凛将身抛却
飞蛾赴了火
[原文]
夏虫の身をいたづらになすこともひとつ思ひによりてなりけり
〔545〕
夜来多怅然
更哪堪秋深露繁
双袖泪不干
[原文]
夕さればいとど干がたきわが袖に秋の露さへ置き添はりつつ
〔546〕
四时殷勤替
一年肠断最秋夕
相思无穷极
[原文]
いつとても恋しからずはあらねども秋の夕べはあやしかりけり
〔547〕
秋穗累累向人夸
恋心却恐人识察
相思暗咽下
[原文]
秋の田の穂にこそ人を恋ひざらめなどか心に忘れしもせむ
〔548〕
秋穗摇摇思情深
雷鸣电闪只一瞬
无时不思君
[原文]
秋の田の穂のうへを照らすいなづまの光の間にも我や忘るる
〔549〕
此情怕人知
不若芒穗舞多姿
秋野任恣肆
[原文]
人目もる我かはあやな花すすきなどか穂にいでて恋ひずしもあらむ
〔550〕
我情似薄雪
破碎支离不堪重
凄然幽怨生
[原文]
淡雪のたまればかてにくだけつつわが物思ひのしげきころかな
〔551〕
深山有菅草[362]
落雪埋根终能消
恋心自繁茂
[原文]
奥山の菅の根しのぎ降る雪の消ぬとかいはむ恋のしげきに
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